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「連載企画 『新システムで保育はどうなるの?』 Vol.5」

保育・子育て支援の仕組み〜

「子ども・子育て新システム」法案の修正合意をどうみるか?

子どもの健やかな成長・発達、安心して子どもを預けられる保育園・幼稚園を、というのは、親をはじめみんなの願いです。今、進められている保育の制度改革のゆくえは子育て中のみなさんにとって大きな関心事のはずですが……。難しくてよくわからない、どうなっているのか情報がない、という声に応えて、この間、連載をしてきました。少し状況が見えてきたでしょうか?

 

さて、今回はまたまた、「よくわからない」に逆戻りしてしまいそうな事態が起こっていることをお話することになります。ちょっと我慢して読み進めてみて下さい。

政府が2015年度の消費税率10%へ引き上げの段階から完全実施を目指すとしている「子ども・子育て新システム」(以下 新システム)は、幼い子どもの安全や成長・発達を脅かすとして、全国各地で保護者、保育者、施設経営者など、保育関係者らが中心となり反対運動を続けています。

 

しかし、6月15日、新システム関連法案は民主・自民・公明3党の合意により、一部修正され、「社会保障制度改革推進法案」とともに今国会での成立を図るとして、21日に衆議院を通過させようとしています(6月19日現在)。国会での十分な審議もないまま、法案採決を強行することは許されるものではありません。

 

果たして、この修正で新システムの問題点は解決されるのでしょうか。今回は修正の内容とその問題点を考えます。

なにが修正されたの?
新システム関連法案(子ども・子育て支援法案、総合こども園法案、関係法律の関係整備法案)のうち、総合こども園法案は取り下げられ、代わりに「認定こども園法の修正案」が提案される見込みです。しかし、それ以外については、「子ども・子育て支援法などの一部修正」にとどまると予測され、新システムそのものが撤回されるわけではありません
「総合こども園」から「認定子ども園」へ── これでよくなるの?

政府は総合こども園をやめて現行の幼保連携型認定こども園制度を拡充するとしています。

 

現行の認定こども園制度は、幼稚園・保育所の緩い方の基準をもとにした基準設定がされていることや、施設が入所者と契約する直接契約、保育料の自由設定など、現在でも多くの問題を抱えています。今回改正されたとしても、これまで政府が推し進めてきた総合こども園に限りなく近いものになると予測されます。

変わらない新システムの基本構造

児童福祉法第24条「市町村の保育実施義務」について、「市町村が保育の実施義務を引き続き担うこととする」などの修正が合意されたということですが、現行法の、市町村が保育そのものを保障する現物給付なのかどうかははっきりしません

 

また、修正案では、認定こども園、幼稚園、保育所に「施設型給付」という「共通の給付」を創設するとしています。保育所への補助金ともとれるものですが、直接契約を前提とした利用者補助の仕組みを変えるとは明示されていません。よって「個人への現金給付の仕組み」自体は変わっていないと思われます。

 

新システムの直接契約・給付の仕組みと、現行制度の市町村の保育実施義務は両立し難いもので、法案成立を優先させた結果、矛盾をはらんだ修正案となってしまったといえるでしょう。

周到に準備されていた法案?

そもそも新システム最大の問題点は保護者や保育者、保育経営者など、新システムの導入で、最も影響を受ける人たちにほとんど知らされないまま、もしくは問題が意図的に隠されたまま、法案が提出されたことにあります。

 

新システムが導入された場合、保護者の負担はどれ位になるのか、保育の必要性の認定により、現在の保育時間が減らされることはないのか、自治体の責任が後退しないのかなど、保護者や保育関係者が最も知りたいことが明らかにされないままで、法案が提出された現在でも、疑問に答える材料は十分に提出されていません

 

また、新システムの関連法案の内容は複雑で対象範囲も多岐にわたっていることから、かなり以前から周到に準備されてきた法案であることがうかがえます

 

そして、もし法案が成立すれば、おそらく、介護保険法と同様、施行直前になってばたばたと政令や通知が発せられ、保育の必要性により保育時間が減らされる保護者が続出するなどして保育の現場は大混乱に陥るであろうと指摘する専門家もいます。

 

子どもたちの健やかな成長が政局に利用されるようなことがあってはなりません。すべての子どもによりよい保育を提供するために、子どもの権利保障を最優先に掲げ、修正による法案成立を許さず、廃案に向けての運動をさらに強めることが必要です。今後も目が離せない情勢であることに変わりありません。(順)

 

 

■取材協力/南九州大学 人間発達学部子ども教育学科 黒川久美教授

■主な引用・参考文献/月間保育情報5月号、全国保育団体連絡会運動推進ニュース

 

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