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特集「叶わなかった夢を今── クラシックカーはなぜ愛され続けるのか? 「クラシックカーフェスティバル大会会長 有留秋美氏インタビュー」」


 

多彩な機能や設備が搭載された車種で溢れる現代にあって、今もなお、昭和の時代に製造された『旧車(クラシックカー)』を愛し続ける者がいる。

 

そもそも、今の若者にしてみれば、『旧車』と聞いてもいまいちピンとこないのではないだろうか。

 

それでは、旧車とは一体どのようなものなのか──そして、なぜ今も愛され続けているのか──

 

この疑問を調査するにあたり、クラシックカーフェスティバルin霧島の大会会長を務める有留秋美氏(61)に取材を依頼。そこで有留氏の口からは、『旧車』にこだわる熱い思いや魅力が次々と語られるのであった。

 

Interviewer/ガノ

 


エンジンとモーターによる駆動方式のハイブリッドカー、電気を動力源とする電気自動車など、最先端テクノロジーにより驚くべき低燃費・省エネ化を実現し、ここ十数年で急速な進化を遂げた自動車。

 

だが、そんな時勢にあるにも関わらず、パワーウインドウやリモコン式のドアロックはおろか、エアコンも無き時代の車──俗に言う『旧車(クラシックカー)』を愛好し、今でも大切に乗り続ける者がいる。

 

その分かりやすい例が、今年も10月24日(日)に、高城町石山観音池公園自由広場にて開催される、『第8回クラシックカーフェスティバル in 霧島』。

 

このイベントには宮崎・鹿児島はもとより、九州内外から多数の愛好者が自慢の愛車と共に参加。毎年200台にも及ぶ旧車で会場が埋め尽くされ、来場者数も1万人規模を誇るなど、僅か8年目にして既に九州最大規模のイベントと化しているのだ。

 

それでも、全国的に見ると、旧車の所持数は九州が一番少ないとされている。そこには、全国に旧車を欲する人達が数多く存在し、特に都会ではなかなか手に入らない物となっている為、わざわざ九州にまで足を運び、買い付けに来るという背景があるようだ。

 

この流れを見ても、旧車の愛好者は全国各地に三千と存在している事がわかるが、では、そうまでして旧車の虜になる理由とは、一体どこにあるのだろうか?

旧車の魅力は、現在の車との『違い』

──こんにちは。今回は、来月行われる「クラシックカーフェスティバルin霧島」の開催に伴い、旧車について色々と調べたいと思っているのですが、そもそも旧車と呼ばれる物の定義とはどのようなものなのでしょうか?

 

有留氏/実は旧車の定義というものは非常に難しい部分で、『何年までに製造されたものを旧車と定める』といった決まりは無いんですよ。一般的には昭和40年代〜50年(1975年)までに製造・販売されたものを旧車と呼んでいますが、地方やイベントにより、その範囲は前後しています。ちなみに、我々の実行委員会では『1980年までに製造された車輌及び同型車』を旧車と定めています。(※図1)

 

旧車の定義:図のように、1973年製造の車と、1983年製造の車が、全く同じ型式であれば、それを同型車と呼ぶ。クラシックカーフェスティバルでは、この条件を満たしていれば、1983年製でも旧車とみなす。

 

──私が1975年生まれなので、約35年以上前に製造された車が旧車なんですね。ところで現在の車と旧車では、構造的にどのような違いがあるのでしょうか?

 

有留氏/そうですね、まずはパッと見た感じ、つまり、車の形状が大きく異なっています。現在の車が丸みを帯びた流線型のデザインであるのに対し、旧車は四角い箱形をしたものが多いんです。

  現在の車は、空力を計算したフォルム・低燃費構造・内装を広めに…といった共通のコンセプトが多く、それを基にデザイナーがコンピュータにより設計するため、似たような形の車が多くなってしまうんです。

  それに対し、旧車の時代には『他のメーカーと同じ形の車を売ってもダメ。違う事をして売り出さなければ意味がない』という考えがありましたので、各メーカーから個性的な形をした車が次々と作られていったんです。

 

──なるほど。この個性的な形状という部分は、人を惹き付けるのに充分な魅力を感じますね。

 

有留氏/そうですよね! 旧車の魅力っていうのは、このような現在の車との『違い』の部分だと思うんですよ。

  例えば、排気音やエンジン音にしても、旧車は音がうるさいんです。現在の車は消音装置の発達や、排出ガス規制等により、音も静かになっていますが、このように進化の初期段階にある当時の仕様や、法規制前の仕様が楽しめるのも旧車ならではの醍醐味ではないでしょうか。

  他にも、旧車はエンジンのかけ方も今とは異なるんです。まずはポンプのようにアクセルを2〜3回踏んでガソリンをエンジンに送り、燃料が行き届いたタイミングを見計らってキーを回すんです。私は、今の車には『乗せてもらっている』という感覚が強いんですが、この操作時には、『自分が車を動かしているんだ』という感覚が沸いてくるので、とても大好きな瞬間なんです。

旧車の燃費は平均5〜6km/L

──それでは逆に、旧車ならではのデメリットを教えて頂きたいのですが。

 

有留氏/やはり古い車ですので、故障やトラブルに常に留意しないといけない所でしょうか。エンジンもオーバーヒートが起きやすいですし、電気系統も消耗により配線が切れやすくなっていますからね。

  また、車体も素材が鉄であり、防腐処理も今ほどしっかり施されておりませんので、雨に濡れるとサビにより腐食する恐れもあるんです。

  そして何と言っても燃費の悪さ。例えば2000CCの車では平均5〜6km/Lしか走らないですからね(笑)。

 

──5〜6km !? 今では到底考えられない数字ですね!

 

有留氏/考えられないでしょ!(笑) そういった意味では、旧車のデメリットは『維持費』という部分に集約されるのではないでしょうか。修理代や燃費もそうですし、何より乗っていなくても車検は受けないといけないですからね。

 

──旧車を持つって簡単な事じゃないんですね。ところで今、費用の話が挙がりましたが、そもそも旧車の相場ってどれくらいするものなのですか?

 

有留氏/これは本当にピンからキリまであるんですが、安い車であれば、レストア無しで60万〜80万円で購入できます。レストアとは、老朽化した車を元の状態に復元する事を言うんですが、この作業を行うと、プラス100万円程の料金が加算されます。

  一般的に人気の高いクラス──例えばNISSANのスカイライン、通称『ハコスカ』辺りでは、レストア無しで150万円、レストア有りでは250万円くらいが相場になっていますね。

  ちなみに、最高の国産車と言われるTOYOTAの『2000GT』では、当時で238万円(現在にすると約1500万〜2000万円)という高額に加え、1967年〜1970年までの3年間で僅か337台しか生産されなかった希少性も加味され、現在フルレストアであれば3000万〜3500万円程の値が付いてます。

 

大人気車種 箱形スカイライン 通称『ハコスカ』

 

──2000GTは別格としても、旧車の相場はレストアまで含めると、新車が買える程の値段なんですね。しかし、これまでの話を聞く限り、どうも旧車は日用性に欠ける印象があります。もしかして、オーナーとなっている方々は乗る事を目的として購入しているのではなく、コレクション的な要素で購入している方が多いのでしょうか?

 

有留氏/その通りですね。中には普段から乗っている方もいらっしゃいますが、多くは普段使う車とは別に旧車のオーナーとなっています。

 

──想像するに、オーナーの方々は、お金持ちが多いのでしょうか?

 

有留氏/いいえ、お金持ちとかではなく、普通の方々が殆どです。但し、オーナーのメイン層は40代後半から〜60代が多いんです。

 

──年代層は比較的高いんですね。

 

有留氏/そうなんです。この年代層のオーナー達の若かりし頃は、給料が当時の月給で3万5千円程でした。ですが、その時の大衆車である『カローラ』の新車でさえ、36万円もしていたんです。

そんな時代に、若者の心を掴んで離さない車として、TOYOTAのセリカやレヴィン、NISSANのスカイラインやフェアレディZなどがありました。しかし、これらのスポーツカーに乗れるのはお金持ちばかりで、私達にとっては夢のまた夢──│乗りたいという憧ればかりが募っていってました。

それから数十年が経った現在、生活も落ち着き、経済的にもゆとりが出てくるようになった事で、当時叶わなかった『憧れの車に乗りたい』という夢を、大人になった今、実現させているんです。

 

──なるほど、旧車が今も愛されている理由にはそのような背景があったのですね! それでは、クラシックカーフェスティバルにも、その年代層の方や、共に同じ思いをして若き日を過ごした方が多く集まるんですね。

 

有留氏/はい。私は社会が高齢化し、若者達に主役の座を奪われつつある時代の中で、大人達が輝きを失わず、幾つになっても少年のような心で夢を追いかける事が大切であると考えます。そのような思いを実現できる催しとして、クラシックカーフェスティバルはいつまでもあり続けたいですね。

 

──それでは最後に、クラシックカーフェスティバルの見どころを教えて下さい。

 

有留氏/そうですね──昭和の時代に作られた旧車が、参加者の情熱と日頃の手入れにより、芸術品として甦っています。当時のスタイル、進化の過程にある仕様、現行車とのギャップなど、数々の発見や楽しみ方がクラシックカーフェスティバルにはあります。歴史に足跡を残す旧車達が一堂に会する祭典です。皆さんも是非お越し下さい。

 

──本日は、誠にありがとうございました。

 

 

初代モデルと現行モデルの比較。もはや同一車種とは思えない変貌ぶり。

【コラム】 旧車で公道は走れるの?

旧車の終わりとされる1975年から既に35年。この間、車の機能や仕様は劇的に変わっている。

その中から、少し気になる旧車ならではの仕様を紹介したい。

 

◆フェンダーミーラーが付いている。(現在はドアミラー)

◆ウインカーランプの色が赤色。(現在はオレンジ色)

◆排気音が大きく、排気ガスも多い。

◆シートベルトが付いていない。

 

当時はこれが当たり前の仕様だったのであるが、これらを見ると、ある疑問が浮かぶ。

 

「果たしてこの仕様の車で、現在の公道を走る事は出来るのであろうか?」

 

確かにフェンダーミーラーは、タクシーに付いているものを今でも見かけるが、それ以外の仕様は、どうも違法の臭いがする………。

 

だが、実のところ、旧車で公道を走っても全然OKなのだ!

 

これは、当時の法律の下で製造された仕様である為、現在の法律では違法とされる仕様であっても、規制の対象外となっているのである。

 

だが、違法改造を行うのは当然の事、安全面が認められないパーツ取り付け()も不可となっている。

 

但し、取り締まる側も、当時の車の仕様や規制を知る者が少なくなってきているのだとか……。

 


 

※例えばフェンダーミラーを外してサイドミラーの位置に取り付けた場合……サイドミラーは突起物(危険物)である為、本来の仕様では人や物が当たった際はどちらかの方向に倒れるようになっている。したがって、旧車にサイドミラーを固定して取り付けると違法となる。

※この記事は「きりしまフォーラム 2010年10月号」に掲載されたものです。