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特集「第40回春の高校バレー 都城工業、春高バレー全国制覇!! そのドラマティックな栄光の軌跡」

第40回 春の高校バレー 都城工業全国制覇記念写真

 

 

「号外、号外〜」。

 

珍しい号外の配布に、一抹の不安を覚えたのは私だけではないだろう。しかし、手にした号外は、その予想を良い意味で裏切ってくれた。目に飛び込んできたのは「都城工業、春高制す」の文字だった。

 

第40回を迎えた全国高校バレーボール選抜優勝大会(国立代々木競技場)。県予選を順当に勝ち抜き、全国の頂点を目指すこの大会は、バレーボールに情熱を傾ける高校生にとっては、「甲子園」に匹敵する大会だ。今大会の県代表は都城工業。5年ぶりの春高バレー出場である。

 

チームを率いるのは鍋倉雄次郎監督(50歳)。同校で機械科を教える教師であり、バレー部OBでもある。今でこそ「守りのチーム」と言われる現レギュラー陣だが、当初からそうだったわけではない。彼らは中学時代、それぞれの学校でエースやサイドアタッカーを務めてきた選手ばかりで、センター候補の選手がいない状態だった。強打者ばかりの野球チームが決してうまくいかないように、バレーも攻守のバランスがとれてこそ良いチームになる。そこで監督は選手の適性を見極めながら、チーム作りをするところから始めたという。そうして監督就任から三年が経ち、都城工業バレー部は均整のとれたチームとなった。

 

県大会での決勝は日向学院との闘いだった。日向学院は37回大会から3年連続代表となったチームである。大方の予想どおり両者譲らずの接戦だったが、最後には都城工業が競り勝ち、代々木への切符を手にした。純粋に全国大会出場を喜ぶ声も多かったが、鍋倉監督と選手たちにとって「全国大会出場」はあくまでプロセスに過ぎなかった。彼らの目指す場所はもっと高いところにあったのである。

 

だからこそ全国一と自負するハードな練習を積んできたし、研究も行ってきた。特に力を注いだのが、ビハインドからの巻き返し。都城工業は伝統的に守りのチームだが、守備力で粘り、そこから切り返すという、「劣勢からの逆転」をイメージした練習を重ねることで選手たちに自信も生まれた。そうして、代々木の春は幕を開けたのである。

 

 

〔第一回戦 都城工2×0盛岡南(岩手)〕

 

コンビバレーを得意とする盛岡南だが、持ち味を活かせない。対する都城工業は福吉のスパイクや園田のブロックで第一セットを先取。続く第二セットも吉岡・長友両エースの活躍で快勝。

 

 

〔第二回戦 都城工2×0米子工(鳥取)〕

 

長身のプレーヤーを揃える米子工だが自慢の攻撃力を都城工業バレーが抑え込んだ。第一、第二セットとも都城工業が圧倒。

 

 

〔第三回戦 都城工2×1清風(大阪)〕

 

一回戦、二回戦と快勝した都城工業だが、次なる相手は強豪・清風。エース・七里を中心に速さのあるコンビバレーが特徴だ。第一セットは園田のジャンプサーブが冴え先取したが、第二セットは好機を掴めずにセットを奪われる。苦しい雰囲気が断ち切れない最終セットの終盤、16-19と3点のリードを許す局面で、吉岡のサーブが流れを引き寄せた。その後、長友の力強いスパイクが決まり、焦った相手チームのミスも誘って9連続得点。大逆転勝利で8強入りを決めた。

 

 

〔準々決勝 都城工2×1東洋(東京)〕

 

今大会、優勝候補として挙げられていた市立尼崎(兵庫)、佐世保南(長崎)を破り勢いづく東洋。選手の多くが「苦しい闘いだった」と回想するこの試合、第一セットは序盤から相手にリードを許した。23-23で同点に追いつくも、相手チームのブロックに阻まれ、先取を許す。しかし第二セットはサウスポー長友の強打、ピンチサーバー海野の好サーブでセットを取り返す。そして最終セット。長友をして「やばい」と言わしめた16-20の局面。劣勢から再び海野のサーブで相手のリズムを崩し、守りの要、久保田・福吉らがしぶといレシーブでセッター・尾崎へ。「困った時は吉岡主将、長友先輩を信じてトスを上げた」という尾崎の信頼に応えた両エースは、ついに21-21の同点に持ち込む。その後も確実に得点を上げ、逆転勝利で17年ぶりのセンターコート()進出を決めた。

 

 

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試合風景

 

鍋倉監督曰く「清風、東洋と苦しい試合が続いたが、だめだと思ったことはなかった」。粘って切り返し、接戦での流れをものにする都城工業バレーができれば、負けるはずはないと考えていた。確かに、接戦を制したこの二試合は、劣勢からの逆転をイメージした練習が効果をあげている。

 

しかし一方で、「死力を尽くした(監督談)」連戦により、選手の疲労もピークに達していた。試合会場から宿舎まではそう遠くなかったが、選手たちの疲労を考慮して、鍋倉監督は人混みの中を電車で帰るのではなく、タクシーで帰るよう指示。「東洋戦の後が一番疲れていた。早く帰りトレーナーに身体の手入れをしていただき、ぐっすり寝たら準決勝で面白いようにスパイクが決まった(長友)」。

 

 

〔準決勝 都城工3×0弥栄(神奈川)〕

 

本大会が初出場の弥栄は、初戦こそ緊張で接戦となったものの、二回戦以降は勢いに乗り、並み居る強豪を次々とストレートで破った。正に今大会の台風の目と言えるチームであった。その快進撃の弥栄を都城工業は、25-18、26-24、25-21と、3セット連取のストレートで退けた。「弥栄高校は、都城工業が最も得意とするタイプのチームであり、終始安定したゲーム運びで勝利することができました。この春高バレーは、毎日の6連戦で準決勝から5セットマッチになります。その準決勝を3セットで勝利できたことは、選手たちの体力の消耗を考えると、明日の決勝に向けて大きな意味がありました」と鍋倉監督。実際、決勝で対戦相手になった東福岡は、準決勝で3連覇を狙う東亜学園とセットカウント3-1という激戦を繰り広げており、精神的、肉体的スタミナに微妙な影響があったかもしれない。

 

 

〔決勝戦 都城工×東福岡(福岡)〕

 

東福岡の藤元監督と都城工業の鍋倉監督は同じ九州と言うこともあり知己の間柄。鍋倉監督曰く「藤元監督は研究熱心でバレーをよく知る人。何を仕掛けてくるか分からない怖さがある」ほどの人物であり、同校のキャプテン鶴田選手は、本大会でも注目されるエースアタッカーだ。そして何よりチームを通してレシーブ力が高く、「粘りと守りの都城工業」とは似たタイプのチームと言える。それだけに勝負は1点を巡る激しい攻防が繰り広げられた。

 

鍵を握ったのは、セットポイント1-1で迎えた第三セットだ。吉岡・長友両エースが執拗なマークにあい、東福岡に追いつかれた22-22のヤマ場で、セッター尾崎は好調の園田を起用。成長著しい一年生アタッカーは次々とクイックを決め、26-26のジュースへ。最後はマークの外れた吉岡が豪快なスパイクを決め、29-27でこのセットをものにした。

 

そして両チームともに「最初の1点が勝負の鍵を握る」と考えていた最終セット。直前のセットでレシーブミスをした長友は「嫌な思いを振り切りたかった」と渾身の一撃を繰り出す。このスパイクが相手コートに突き刺さり、都城工業は「最初の一点」をもぎ取り流れに乗る。その後も優位に試合を運び見事勝利。決勝戦は、まさに都城工業バレーの真骨頂とも言える試合だった。

 

 

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練習中の風景

次なる目標に向け練習中のバレー部員

翌日の凱旋パレード。選手たちの姿に、感動を覚えた人も多かろう。しかし選手たちは感動にひたる間もなく、続く「総体」「国体」という高校三冠を目指し、またハードな練習に打ち込んでいる。

 

苦しいと思うことはあっても、負けると思ったことはない──この試合中、チームの全員の心に宿っていた強い思い。

 

この言葉から、我々が学ぶことは多い。

【主な選手の一言】

 

吉岡光大(レフト・キャプテン)「チームみんなの勝利への執念が相手より勝った。いろいろな方に支えられての優勝だった。」

 

長友優磨(ライト)「頂点に立つために吉岡と都城工業に入った。総体・国体に優勝して高校三冠を獲りたい」

 

園田康仁(センター)「ミーティングで先輩たちと話したように、元気良く楽しくプレイできた。尾崎君とのコンビもよかった」

 

尾崎奨太(セッター)「みんなのレシーブが安定していたのでリズムが作れた。アタッカーがスパイクを決めると自分も嬉しい」

 

福吉義樹(ライト)「安定したレシーブができた。狙い通りのスパイクが何本も決まり、今後の自信になった」

 

酒井駿平(センター)「吉岡さんら先輩のお陰で思い切ってプレイできた。次は総体で優勝したい」

 

久保田雅人(リベロ)「今冬、自信をなくしすごく悩んだが、気合いで上げろという監督の言葉で吹っ切れた。それ以来、気持ちでは誰にも負けない」

 

海野翔太(センター)「ピンチサーバーとして相手を切り崩すことができた」

※準決勝からは、アリーナ中央に一面だけ設けられたコートで試合が行われる。すなわち「センターコート」=ベスト4進出を意味し、選手たちの憧憬の念が込められた言葉。