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特集「噴火による被害──、降灰に悩む住民の声──、噴火の前兆現象──、火山灰を利用した商品──etc 知られざる情報や知っておきたい情報などを調査 『新燃岳噴火に関する報告書』 写真提供/霧島スパヒルズ」

霧島連山『新燃岳』が火山活動を開始してから、約2ヶ月が経過───

メディアでは、連日のように新燃岳に関する報道が行われ、様々な情報が流れてきた。そんな中から、意外に知られていない情報や、知っておきたい情報をはじめ、真しやかに囁かれている情報、被害に頭を悩ます住民の声までを調査───それをもとに、報告書としてまとめた。

 


霧島連山『新燃岳』
52年振りの爆発的噴火

 

1月27日(木)の15時41分、霧島連山『新燃岳』が上空2500Mを超える噴煙を上げ、52年振りとなる爆発的噴火を起こした。

 

新燃岳は前日の26日から断続的な噴火を続けており、その日の15時過ぎ辺りからは、風下にあった都城市では、辺り一面が灰色に染まる程の降灰に見舞われた。

 

その未曾有の光景に、誰もが不安を抱き、『只事では無い何か』が起きている事はすぐさま理解できた。

 

翌28日にも爆発的噴火が起きると、以降も連日のように噴火を繰り返し、現在(3月17日)までに、計13回もの爆発的噴火を含む火山活動が続いている。

 

専門家は、約300年前に起こった『享保噴火』との類似点を分析し、当時の噴火活動は1年半程も続いた事から、長期化は避けられないとの見方を示している。

 

この異常事態に、全国の報道陣が都城市とその周辺地域を訪れ、新燃岳噴火とそれに伴う一連の出来事を、連日トップニュースとして取り上げた。そしてメディアを通し、『溶岩ドームの膨張と火砕流の恐れ』『噴火警戒レベル・入山規制エリアの拡大』『避難を強いられる住民の様子』『降灰に頭を悩ます市民の姿』『噴石や空震による器物破損被害』『降雨による土石流の恐れ』―――といった、火山噴火による数々の脅威や凄惨な様子が全国に知れ渡る事となった。

 

そして、この一連の噴火活動は、様々な所へ影響を及ぼした。

 

『新燃岳噴火に関する報告書』 1月27日の外の風景

宮崎空港の一時閉鎖や高速道路の通行止め、鉄道の運転見合わせなど交通機関の混乱――、新燃岳に近い小中学校の臨時休校――、火山灰による農作物収穫・出荷の妨げ――、相次ぐイベント中止や宿泊客の予約キャンセル――など、とりわけ地域経済への影響は計り知れないものがある。

 

2月末になると、幾分火山活動も小康状態に入ったかと思われたが、3月1日には13回目となる爆発的噴火、13日にも、約4000Mにも上る噴煙を伴った中規模な噴火があった。

 

そして、国土地理院によると、1月26日に噴火が発生してから、2月1日まで新燃岳の山体は顕著な縮みの傾向が見られたが、その後の約1ヶ月間のデータを見ると、えびの〜牧園間で、僅かに膨張の傾向があると発表。専門家はこれを「マグマ溜まりにマグマの供給が続いている可能性が高い」との見解を示している。このマグマの供給は、すぐに大規模な噴火に結びつくものではないとしているが、新燃岳に対する不安や恐怖は、今なお続く―――。

 

 


 

 

住民の声(1)
火山灰に覆われた町 ―夏尾町―

 

新燃岳南東部に位置する都城市夏尾町は、市内中心部より降灰が特に酷かった地域。今も灰の除去作業に追われる住民の方へ話を伺った。

 

「雷のような音と地鳴りが轟き、新燃岳が噴火。あっという間に火山灰が降り始めた。火山灰と共に直径5cm程度の噴石も降っており、屋根や車のフロントガラスに当たる音は、まるで雹が降っているかのようだった。外は視界が悪くなり、真っ暗になっていた。降灰が落ち着き外に出てみると、一面が灰に覆われていた。こんなことは今までに経験したことがない」――こう語ってくれたのは、自営業の男性。

 

『新燃岳噴火に関する報告書』 一面に積もった火山灰

駐車場一面に積もった火山灰は、7〜10cm程になっていた。3月中旬現在(取材日)も、除灰作業はまだ終わっていない状態。10トン車で3回ほど運んでもらったそうだが、今もなお、山のように残っていた。屋根上の火山灰も、今から処理をするという。

 

男性は、「いつまで続くのか…という不安はある。ただでさえ、雨が降れば土砂災害の起きやすい地域。雨量の増えるこれからの土砂災害も心配」と続ける。

 

現在は降灰も落ち着いているが、住民は不安そうに新燃岳の様子を見守っている。

 

 


 

 

住民の声(2)
畜産農家の悲鳴 ―山田町―

 

山田地区で畜産農家を営むSさん宅では、最初の噴火の際に降灰や噴石があり、近所の家では空振で窓ガラスが割れたとの事。さらに、降灰の影響で自宅と4棟ある牛舎には約4cmもの降灰が積もったため、危険を承知で、屋根に上り除灰作業を行ったそうだ。

 

「この先、長期戦となると、牛の飼料の生育に不安が残るし、堆積した灰のある畑から、飼料の収穫ができるのかが心配」と話していた。幸い、収穫した飼料に混入したものを牛が口にしても、影響の度合いは少ないとのこと。

 

しかし、Sさんの住む地区は、土石流避難対象地区に入っており、雨が降ると土石流が発生する危険もある。その為、不安と恐ろしさで、夜も少しの物音で目を覚ますこともしばしばだという。

 

 


 

 

新燃岳噴火には前兆があった!?

 

1月26日より断続的な噴火を繰り返している新燃岳。それより遡る事約1ヶ月前の12月20日、霧島市牧園町にあるホテル『霧島スパヒルズ』では、ある『奇妙な現象』が起こっていた。

 

その日の21時半頃、ホテルの中庭から、ジェット機が近くを通過したかのような轟音が鳴り響いた。ホテル関係者が慌てて中庭へ飛び出すと、そこからは、ホテル最上階(6階建・約20m)をも超えるであろう勢いで温泉が噴出していたのである。

 

『新燃岳噴火に関する報告書』 噴出当時の様子

しかも驚いた事に、その温泉が噴出していた場所は、約20年前に枯渇していたはずの源泉からであった―――。

 

この源泉は、1990年頃に掘削したものの、僅か1ヶ月程で枯れてしまった為、源泉に通じるパイプのバルブを閉じ、そこにコンクリートまで流し込んで、完全に封鎖していたのである――。

 

ところで、火山噴火が起こる前には、様々な異常現象が見られる事があり、例えばマグマの活動が活発化すると地熱が上昇―――すると、作物が異様な成長を見せたり、冬期にヘビやカエルが目撃されたという報告まで上がっている。

 

そんな異常現象の1つとして『枯渇した源泉が再び復活した』という事例が過去にもあり、専門家も今回のケースが噴火の前兆であった可能性を指摘している。

 

この復活した源泉は、噴出に伴う騒音が余りにも激しかった事に加え、ホテルの窓や駐車場の車に、温泉に含まれる硫黄成分が飛散してしまう為、噴出翌日より4日間臨時休業し、消音装置の設置工事を行った。したがって、現在は噴出している姿を見ることはできず、また水量も徐々に減少傾向にある為、温泉としても使用していないという。

 

 


 

 

土石流発生のメカニズム

 

降灰で土石流発生の恐れがあるとして、都城市が1649世帯を対象に避難準備情報を発表した2月10日、対象地域の方は早め早めに自主避難された方も多かったようだ。

 

土石流とは、土砂や岩石などを含んだ大量の水が流れ下る現象で、その速度は時速50km〜60kmに達し、家ほどの大きい岩が流れた事がある程、大きな破壊力を持っている。

 

通常、山に降った雨水は地面に染み込んで、よほどの大雨でなければ一気に流れ出すことはないが、火山灰が降り積もっていると、水を含み粘土のようになって、雨水を通しにくくなる。その影響で、比較的少ない雨でも、雨水がそのまま斜面を流れて谷に集まって地面をえぐり、さらに岩や樹木を巻き込んで破壊力を増し、大きな土石流となる。

 

 


 

 

ボランティアで火山灰除去

 

新燃岳噴火後すぐに都城市社会福祉協議会(都城市松元町4―17 TEL/25―2123)が設置した「災害救援ボランティアセンター」

 

一人暮らしの高齢者や障がいのある方の自宅屋外の除灰作業を中心に、現在まで延べ180件の活動がなされてきた。

 

ボランティア活動に参加した人数は、およそ1380人。団体や企業での参加もみられ、積極的な活動を行った。

 

特に降灰の酷かった西岳地区では、一人暮らしの高齢者が多く、電動カートが灰で動かなくなったなどの相談も寄せられていた。

 

「自分一人ではどうしようも無かった。ボランティアの方々に助けてもらって良かった」と多くの感謝の声が届いている。

 

現在は、要請も落ち着いているが、今後も要請があれば、活動は続けていく。

 

 


 

 

火山灰被害に便乗した悪質商法に注意

 

新燃岳噴火による火山灰被害に便乗した悪質商法の相談が宮崎県消費生活センター(都城支所含む)に7件寄せられている。なかでも高齢者を狙った事例が多発しているため注意が必要である。

 

 

(1)火山灰の掃除に関するトラブル

 

突然業者が「この近所の火山灰の掃除をしたが、お宅はどうするか?」と訪問してきたため、1万円払って掃除を依頼。外回りを軽く掃いただけで、片付けもせずに帰ってしまった。(都城市での事例)

 

高齢者が屋根の除灰作業などを行うのは危険を伴い、身寄りがない人は業者に頼むなどしかない。非常事態の中で不安を感じている高齢者に、近所もやっているから、などと安心感を与えて騙す卑劣な行為である。

 

◎対処法

(1)作業を依頼する前には必ず見積りをとり、納得した上で契約。

(2)業者が訪ねてきて作業を依頼した場合には、訪問販売のクーリングオフ制度(※8日以内であれば契約を解除し、支払った代金を回収できる)が適用されるため、必ず業者名・連絡先等を控えるか、名刺をもらう。

 

 

(2)布団の洗濯を装った訪問販売

 

相談者宅に、男1名が「布団を洗いませんか」と訪問。「今なら500円で洗える」と言ったので了承すると、今度は男2名が掃除機を持ってきて布団に掃除機をかけ、「こんな布団で寝たら病気になる」と50万円の布団を今ならキャンペーン価格と12万円で売りつけてきた。相談者が意思表示をしなかったところ、「月々の分割でも、今の布団の打ち直しでもいい」などと言って、結局2時間居座り、相談者が「いらない」旨意思表示したところ、怒って帰って行った。(串間市での事例)

 

降灰のため屋外に布団を干せないことに乗じ、安価な話で安心をさせて入り込む。そして、病気になるなどとあおり高額布団売りつける手口。

 

◎対処法

(1)勧誘されてもその場で契約せず、家族や周囲の人と相談を。

(2)不要だと思った時はきっぱりと断る。

(3)訪問販売はクーリングオフ制度(※)が適用されるので、必ず業者名・連絡先等を控えておく。

 

 

この他にも、「屋根の火山灰おろしの作業で、数十万円の請求をされた」などといった事例もあるそうだ。しかし、被害にあっても相談しない場合も多いと考えられ、実際のトラブル件数はさらに多いと考えられる。

 

悪徳業者は様々な手口で言葉巧みに善意をかたり、特に高齢者を中心に狙う。とにかく1人で判断せず、家族や信頼できる人に相談することが大切であるが、家族や近所、周囲の方など高齢者を見守る立場の人は事前に注意を促し、気をつけてあげることも必要である。

 

もし、被害にあったり、訪問販売や業者への対応などについて相談したいことがあればお近くの消費生活センターに連絡を。

 

■宮崎県都城地方消費生活センター

TEL/24-0999(相談専用 月〜金曜日※祝日・年末年始は除く 9時〜17時)

【取材協力】宮崎県消費生活センター

 

 


 

 

火山灰をレンガ作りに――

 

都城市山之口町の宮崎高砂工業株式会社では、「このまま火山灰を放っておくと、町が大変なことになる。会社として地域の役に立ちたい。」と、火山灰を使用したレンガの製造を2月より開始。被災者からの「灰を使って、何かものづくりをしてくれないか…」という声も、活動を後押しした。

 

『新燃岳噴火に関する報告書』 火山灰を使用したレンガ

当初、火山灰を窯に入れて焼いてみたところ、灰の色が赤く変わり、鉄分が多く含まれていることが分かった。成分分析をしてみると、焼き物に向いていることが判明。ならば、れんがを…と、火山灰を15%混入し製造。強度試験では、通常のコンクリートブロックよりも強度が高いことが示された。そこで、なるだけ多くの灰を使用したいと試作を繰り返し、最終的に、灰を45%混入したれんがが完成した。担当者は、「火山灰をスピード感をもって処理できる。有効活用して、地域に貢献していきたい」と話している。

 

このれんがは、現在、新燃岳れんがチャリティーブリックとして、1つ300円で販売されている。このうち100円は、宮崎県や東北地方太平洋沖地震の被災者などへ寄付することにしている。1個からでも購入可能。まずは、電話にてお問合せを。

 

■宮崎高砂工業株式会社

TEL/57―2172

 

 


 

 

火山灰を陶器作りに――

 

吉之元町で陶器を制作している「都城焼窯元」の宇都野晄さんは、「三百年前以来の歴史的大噴火を、後世に形として残すことはできないか…。」と2月上旬から火山灰を使用した陶器作りを開始。このほど、試行錯誤の末に完成した陶器が、店頭に並べられた。

 

『新燃岳噴火に関する報告書』 火山灰を使用した陶器

都城に降った火山灰を20%練り込んだ陶器は、火山灰の鉄分が胡麻状に浮き出た模様に。また、釉薬として火山灰を80%使用した陶器は黒っぽくツヤのある仕上がり。どちらも味わいのある陶器になっている。

 

「世の中は暗いニュースばかり。吉之元町方面も、風評被害等もあり観光客数がぐっと落ち込んでいる。厄介者の火山灰を使った陶器を起爆剤として、町の活性化に繋げたい」と語る宇都野さん。

 

新燃岳火山灰練込み器は、都城地場産業センター・みやざき物産館・都城焼窯元霧島工房で販売されている。ぜひ、皆さんにも手にとって頂きたい。

 

■都城焼窯元霧島工房

TEL/27―2600