秋の深まりを日に日に感じる今日この頃。冬将軍の到来に備えて、早速ストーブやヒーターの準備を済まされた方も多いことだろう。
さて、暖房器具の使用頻度が増すに連れて増えてくるのが「火災」。その怖い火の手から身を守るアイテムとして、最近注目されているものがある。煙や熱でいち早く火災を察知する「火災警報器」だ。
事業所やホテルなどではお馴染みの火災警報器だが、実は一般住宅においても設置が義務づけられたことをご存じだろうか。
「え? 設置義務なんて知らないわよ」……そんな読者の方は、本記事を読んで火災予防に対する意識を高めてほしい。
人類の繁栄と文明の発展に大きな影響を与えてきた「火」。火がなければ食物を加熱することもできないし、暖をとることもできない。仮に人類の祖先が「火」の価値に鈍感であったら、地球の支配図は今と違った形になっていたに違いない。
その、我々の生活に欠かせない「火」だが、他方、我々の生命や財産をも脅かす怖い存在でもある。
消防庁の統計(全国)によると、平成20年の総出火件数は5万2,394件。死者数は1,969人で、負傷者数は7,998人に上る。このうち、建物火災は約3万件と半数以上を占め、さらに建物火災による死者の88.4%は住宅火災によるものだ。その数は1,123人で、火災による全犠牲者のうち、55%が住宅火災で命を失っていることになる。
出火原因としては、最も多いのが「放火」で6,396件(12.2%)、次いで「コンロ」が5,534件(10.6)、以下「たばこ」5,063件(9.7)、「放火の疑い」4,380件、「たき火」3,023件(5.8)の順になっている。
では宮崎県の統計を見てみよう。平成20年の総出火件数は583件で、全国比では1%あまりに過ぎない。しかし人口一万人あたりの出火数を示す「出火率」を見てみると、全国平均が4.12であるのに対し、宮崎県は5.02と平均を大きく上回り、全国ワースト4位である。宮崎県は全国的に見ても火災の多い地域なのだ。
出火率の高い原因としては、宮崎県はマンション等の集合住宅よりも一戸建てが多いこと、また、山や畑が多く、野焼き等の習慣があることなどが挙げられるが、あくまで一因に過ぎない。その証拠に、野焼き等を対象外とした住宅火災の出火率においても、宮崎県は1.81と、全国平均(1.35)を大きく上回っている。我が都城市・三股町でも、平成20年には合計117件の火災が発生しており、そのうち建物火災は79件。両地区合わせた人口を20万人とすると、1万人あたり3.95件の建物火災が発生していることになる。事実、宮崎県全体の建物火災のうち、実に、23.6%が都城・三股地区で発生している。
さて消防によると、建物火災による死者のうち、「逃げ遅れ」によるものが6割以上に上るという。また、そのほとんどは睡眠中の逃げ遅れであり、夜間の火災がどれほど怖いかが分かる。
「うちは平屋だからすぐ逃げられる」と油断してはいけない。平屋であれば火の手や煙が廻るのも早く、煙による一酸化炭素中毒はわずか三呼吸で意識を失うこともある。焼死よりも中毒で死に至るケースは非常に多いのだ。
「私は普段、ちょっとの物音でも目が覚めるから大丈夫」と高をくくる人も危険だ。人間の眠りというものは深い眠り(ノンレム睡眠)と浅い眠り(レム睡眠)を繰り返しており、ノンレム睡眠中には大きな物音が生じても目が覚めない場合が多いという。また、アルコールを摂取したり、薬を服用したりした際には、普段見られないような深い眠りに陥ることもある。火災はレム睡眠時だけに起きるわけではないことを肝に銘じておく必要がある。
被害を最小に抑えるためにも、火災は早期発見が大切であることは言うまでもない。そこで、火や煙をいち早く感知し、大きな音で知らせてくれるのが火災警報器だ。
事業所などではお馴染みの火災警報器だが、事業所では通常、人々が「起きて」活動しており(寝ている人もいるかもしれないが)、万が一火災が起きても早期発見、早期避難が可能だ。
住宅火災における逃げ遅れの死者数からも分かるように、むしろ本当に有用なのは住宅においてである。火災警報器を設置すると、死者の数が3分の1程度に減るというデータもある。
そのため、消防法の改正によって新築住宅では平成18年6月1日から、既存住宅についても平成23年5月31日までに火災警報器を設置しなければならないことになった。
だが、都城市が行った平成21年度の「市民ふれあいアンケート(1,700人が回答)」によると、設置の義務化を知らない人が35%もいることがわかった。また、知っていると答えた人が65%いるにもかかわらず、実際に設置しているのは全体の28.7%。既に義務化がスタートしている新築住宅を除くと、既存の住宅に取り付けた人はわずかだ。
「なぜ設置していないのか」という質問に対しては、「まだ期限前だから」という回答が34%を占め、次いで「値段が高いので、もう少し安くなるのを待っている」という回答が17.4%に上る。期限ぎりぎりまで動こうとしないのは、2011年に使用期限が迫る地上波アナログテレビと同じだ。
では、「安くなるのを待つ」必要があるほど、火災警報器は高価なのだろうか。
家電量販店やインターネット等で価格を調べてみると、「煙式」のもので3千円前後から、「熱式」のもので5千円前後から各種ある。
消防によると、寝室への設置でふさわしいのは「煙感知式」のもの。また、台所には調理の煙を感知しない「熱式」が有効とのこと。
寿命はおおむね10年で、その間は電池交換不要のものが多い。ほとんどの住宅では一度も作動することなく寿命を迎えることになろうが(それが最も望ましい)、耐久年数10年とすると1日1円以下の投資で安全が手に入ることになる。
全住宅で義務化が始まるのは1年半後だが、その直前まで設置を見送ったとしても、大幅な値下げはないと考えられる。少額を惜しんだがために、火災の被害に遭ったとすれば、悔やんでも悔やみきれない。
また、設置を先延ばしにする理由として「設置作業が面倒」という声がある。しかし、販売されている多くのものは、ドライバー1本で取付が可能だ。業者に依頼することなく、自分で取付が可能であり、性能を妨げるような設置をしない限り、日曜大工の腕前で機能が左右されることはない。
以下、火災警報器を設置したことで奏功した実例を挙げる。
(ケース1)
Aさんは就寝中、警報器の音で目をさますと、部屋に煙が充満していた。周囲を見渡すと窓際のカーテンが炎上しているのを発見。消火を諦め、子どもの手を引き屋外に避難し、一命をとりとめた。火災の原因は、一緒に寝ていたはずの子どもが起き、ライターで火遊びをしていたことによる。
(ケース2)
Bさんは2階で就寝中、1階に同居中の母親の居室から警報器が鳴っているのに気付いた。駆けつけてみると、仏壇から炎が上がっていたため水道水で消火。大事に至らなかった。
(ケース3)
Cさんはてんぷら鍋をコンロにかけたままであることを忘れ、台所から離れてしまった。その間に加熱し、出火。台所に設置していた警報器の音で気付き、コンロの消火と鍋に蓋をしただけで鎮火した。
(ケース4)
Dさんは居間の卓上コンロで調理中、飲酒で寝込んでしまった。時間の経過と共に発煙し、警報器が作動したが、Dさんは泥酔して気付かず。しかし隣人が警報器の音に気付き119番。消防隊が駆けつけたところ、鍋を焦がしただけですんだ。Dさんは消防隊が来るまで気が付かなかった。
この他にも、たばこの不始末にいち早く気付いたり、こたつからの出火を感知して初期消火できたりと、警報器設置により被害が最小限で食い止められた例は多数ある。アメリカでは1970年代に火災警報器の設置が義務化されたが、それ以前に比べ、火災による死亡者は大きく減少している。
火災警報器の有効性について認識できたところで、設置までの手順をフローにしてみたので参考にして頂きたい。
〔1〕 設置場所を決める
設置場所は住居の全ての寝室。2階に寝室がある場合は階段の上にも設置する。煙は上に上がる性質があり、階段は寝室よりも早く煙が充満するため、非常に有効。台所や居間、廊下などには設置義務はないが、必要に応じて設置すると効果的。
〔2〕 警報器を選び購入する
「NS(日本消防検定協会)マーク」の付いているものを選ぶ。停電時も作動する内蔵電池式で、10年間交換不要のものが主流。寝室や階段には「煙式」、台所には「熱式」がよい。ホームセンター、百貨店、消火器を取り扱っている設備業者の他、インターネットなどの通信販売でも手軽に購入できる(ただし、性能と業者をきちんと見極める)。
〔3〕 設置する
天井取付タイプの場合、壁から60センチ以上離れたところ、エアコンや調理器具の吹き出し口から1.5メートル以上離した所に取り付ける。壁取付タイプの場合、天井から15センチ以上、50センチ以内の範囲に設置。いずれの場合も、警報器の取扱説明書通りに取り付ければ、設置はそれほど難しくない。ただし高所への取付となるので、自分で無理だと判断した場合は、知人や業者に依頼することも考える。
〔4〕 点検する
取り付けた直後に、正常に作動するかどうかを調べるのはもちろん、それ以後も1ヶ月に一度を目安に、正常に作動するかどうかをチェックする。点検方法は、本体の引きひもを引っ張るもの、ボタンを押すものなど機種によって異なるので、購入時には点検方法を確認しておく必要がある。乾電池式のものは、電池切れを音やランプで知らせてくれるので、すぐに交換する。
〔5〕 10年経ったら
火災警報器には、交換時期を明記したシールが貼ってあるか、「ピー」という音などで交換時期を知らせてくれる。おおむね10年が目安。交換時期が来たら、機器ごと交換する。そして、火災に遭わなかったことに感謝し、これからも火災予防を心がける。
火災警報器の義務化に伴い、消防局員や市の職員を装った悪質な訪問販売の事例が発生している。
その内容は、火災警報器の販売から取付までを行い、法外な金額を請求するというもの。消防署や市区町村が直接火災警報器を訪問販売することはなく、特定の業者の商品を斡旋したり、販売・設置を委託することもない。
とりわけ高齢者や女性は狙われやすいので注意するとともに、おかしいと思ったらすぐに判断せず、消費者生活センターや消防署、家族・知人に相談してほしい。
設置期限にまだ猶予があるということで、のんびり構えている人は少なくない。しかし火災はいつ起きても不思議ではなく、設置を先延ばしにしたからと言って、火災も先延ばしになるわけではない。また、自分がどれだけ予防に努めたとしても、放火に遭うことだって考えられる。
そのことをふまえ一日も早い設置を進言したい。火災は時に失火した家だけの被害では済まない場合もある。平成20年中に都城市・三股町で発生した火災の被害総額は1億7,000万円(前年は3億円)。そして4名の尊い人命が失われた。
繰り返すが、被害を最小限に抑えるためにも「備えあれば憂いなし」である。
(取材協力/都城市消防局予防課・内村邦彦氏)