2006年1月に一市四町が合併して「新・都城市」が誕生し、同年2月の市長選で長峯誠氏が初代市長に就任した。
それから3年。長峯市長の任期はあと1年を残すだけとなり、今年は、長峯市長にとっても、都城市にとっても、鍵を握る年になるだろう。
しかも日本経済は今、未曾有の大不況に突入しつつある。そこで長峯市長に不況への緊急経済対策をはじめ、市民の誰もが注目している南九州大学の動きについて、さらにサブシティ構想を含めた行財政改革の進捗状況など、市民の立場からお話を伺った。
記者 本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、戦後最大の経済危機と言われる大不況の中、市独自で行なう緊急経済対策があれば、教えていただきたいのですが。
長峯市長 市独自のものとしては、「55(ゴーゴー)サポート予算」と銘打ち、新年度予算で5億5千万円の景気対策予算を上程します。その内訳は、住宅リフォーム促進事業に1億円、プレミアム商品券発行支援事業に1億円、入札執行残活用事業に1億円、地域活性化・生活対策臨時交付金事業に2.5億円、合計で5億5千万円となります。
記者 具体的にどういった内容で、どのくらいの波及効果が期待できるのでしょう。
長峯市長 住宅リフォーム促進事業は以前も行なったことがあり、大変好評でした。内容としては、住宅のリフォームにかかる経費に対して10パーセントを、10万円を上限に助成するもので、経済波及効果としては17億円を見込んでいます。プレミアム商品券発行支援事業というのは、1割上乗せした商品券を売り出す商工会等に、上乗せ分の助成をするものです。
記者 我々消費者としては、1万円で1万1千円の商品券を購入できるということでしょうか。
長峯市長 そうです。消費者にとっては、かなりお得な商品券になると思います。このプレミアム商品券発行支援事業では、14億円の波及効果があると見込んでいます。そして入札執行残活用事業・地域活性化・生活対策臨時交付金事業については市民要望の多い公共事業への取り組みで、小中学校の教室へ扇風機を設置したり、側溝や路面の整備を行なったり、あるいは老人福祉施設の改修を行なうなどします。経済波及効果としては3.6億円を見込んでおり、これら全ての波及効果を合わせると、36億円にのぼる見込みです。
記者 国の対策がなかなか進まない中、5億5千万円で36億円の波及効果が上がれば、景気に好影響を与えることができるでしょうね。次に伺いたいのは、4月開校の南九州大学都城キャンパスについてです。新学部(※1)認可の見通しが立たず、環境園芸学部だけのスタートとなりましたが。
長峯市長 ええ。その点は私も残念です。ただ環境園芸学部は推薦入学で既に90名の学生を確保しており、一般入試を含めた130名の定員でスタートすることになるでしょう。4月開校ということで、話題に上ることも多いのですが、実際に市民の皆さんが「学生がたくさん増えたなあ」と実感するのは、環境園芸学部の1・2年生に新学部の1年生が加わる来年以降になると思います。
記者 両学部とも4年生まで全て揃うと、約1千人の学生が増えるわけですよね。それに教職員の方々を合わせると、約22億円以上の経済効果があると試算されています。そうした経済効果とともに、地元に最高学府があることで市民に与える影響も大きいと思われますが。
長峯市長 おっしゃる通りです。やはり、地元に大学があるのとないのとでは違います。高校生が進路を考える際、希望の学部が地元にあれば、保護者の方々の経済的な負担が軽減されますよね。つまり、それだけ子どもたちの将来の選択肢が広がるというわけです。市内の高校生にアンケートを取ったところ、5人に1人が教育関係の学部に進学することを希望しました。
記者 そうしたリサーチの結果もあり、教育関係の学部を新設されるわけですね。ただ、市民が懸念しているのは、宮崎産業経営大学の二の舞にならないかということ。率直に申し上げれば、短期間で廃校になるようなことはないかと心配しているわけです。
長峯市長 産経大は学部の選択ミスにより、結果的に失敗したと思うのです。観光というジャンルの学部は、開校時は注目を集め学生も1千人以上集まりました。着眼点そのものは良かったと思います。しかし、それを他の大学が真似したことで競争が始まり、総体的に負けてしまったという経緯があります。一方、今度の南九州大学の環境園芸学部は、新設の学部でありながら土台には40年の歴史がある。しかも私立の大学が持つ学部としては西日本唯一で、独自性のある学部として評価と実績もあり堅実です。それにこの学部は地場産業とも密接な関係にあります。また、新設予定の教育関連学部も先ほどお話ししたように高校生のニーズにかなっていますし、周辺地域からも学生が集まるでしょう。いずれの学部も地元にニーズがあり、卒業後は地元に就職口を求めることができる。その点で産経大とは異なります。
記者 さて、長峯市長といえば「サブシティ構想(※2)」が思い浮かびますが、健康・医療ゾーンの中核を成す医師会病院の都城インター付近への移転は、どのように進んでいますか。
長峯市長 昨年、医師会と市で共同報告書を作成し、大まかな概要を定めました。それによると、平成25年から27年の間に完成オープンする計画です。そして、この4月から基本構想に取り掛かる予定で、3月の議会ではそのための予算を上程します。その後、基本設計、思惟設計、着工という段取りが組まれています。もちろんその間、解決しなければならない課題はありますが、しっかりクリアして進めていきたいと考えています。
記者 現在の二次医療ではなく、三次医療までの機関を望む声もありますが。
長峯市長 それは残念ながら難しいでしょう。予算もおそらく倍かかり、ドクターも倍の人数を確保しなければなりません。我々としては、インター付近に設けることにより、三次機関である宮崎医大病院、県立病院が近くなるというメリットを生かしたいと考えています。三次の治療が必要な患者さんもすぐ高速で搬送できるわけですから。それから市の中心部には藤元病院、都城病院といった二次病院もあるので、医師会病院がインター付近に移転することにより、市北部の方や小林市、西諸といった県西部にお住まいの方々の拠点病院にもなります。また高規格道路(※3)が完成すれば、市南部の方や曽於市、志布志市の方も病院とのアクセスがスムーズになります。
記者 移転により、今まで以上に重要な拠点病院になるということですね。それでは、サブシティ構想のもう一つの柱である雇用創出ゾーンについて、企業誘致は進んでいますか。
長峯市長 この3年で5社の誘致に成功しました。高城原工業団地はすでに完売し、高城、石山、高木の工業団地にまだ土地が残っている程度です。この度の景気の冷え込みは、底を打ってから回復するまで3年は掛かるだろうと言われていますから、今のうちに新しい工業団地を造っておく必要があると考えています。造ると決めてから完成まで、およそ3年という期間を要するので、今から取り掛かれば景気回復のタイミングに合うわけです。私はマニフェストにおいて、1期4年でトップセールスを行い、10社の企業誘致を行うと約束しましたが、このサブシティ構想の地域外でも企業誘致に成功し、3年で21社の誘致に成功しました。ここ数年では、県内で一番多くの企業誘致に成功しています。
記者 その要因は、何だとお考えですか。
長峯市長 県内の市町村で最初にトップセールスを行なったことと、積極的に各地に出掛けていって情報発信したこと。そして県の誘致課に市の職員を派遣したことが挙げられます。それからもう一つ、旧寿屋を買い取ったBTVケーブルテレビさんがIT産業ビルとして、ビルのハード面を現在のニーズに合わせて整備して下さったのも大きかったと思います。
記者 大手企業のコールセンター等が入りましたからね。志布志と都城インターを結ぶ高規格道路の進捗状況はいかがですか。
長峯市長 予算付けの厳しい中、予算を削減されることなく進められています。宮崎と鹿児島の県境箇所が調査区間に格上げされる見込みで、また平成21年度には、五十町と今町間が開通します。五十町から平塚間は、用地買収も終わり現在工事中で、平塚から南横市間の用地買収も進んでいます。
記者 この道路が完成すると九州でも取扱量の多い港である志布志港の利便性が一段と高まりますね。
長峯市長 それだけではなく、志布志市、曽於市などが都城経済圏に入るため、道路が大動脈として機能するという期待もあります。
記者 一方、志布志港は飼料の輸入がほとんどで、輸出が少ないと聞いているのですが、輸出の面でもっと利用できないものでしょうか。
長峯市長 そうするには、私はやはり「農産物」が鍵になると思います。日本の農産物が高品質で安全であることは、他国の方々もご存じですので、割高でもニーズはあると思います。すでに新福青果さんは、香港や上海にたくさんの農産物を輸出していまして、韓国との取引も始まっています。私は、黒毛和牛を輸出するのも良い考えだと思うのです。他国産牛肉の価格より数倍高かったとしても、一度販路を確立することができれば十分に競争できると思います。
記者 宮崎牛は日本一ですから、ネームバリューもありますしね。
さて、都城市では平成18年の12月に行財政改革大綱を発表しましたが、分かりやすいものとして、5年間で消防士を除いた140名の職員の削減、合併時の1,320億の地方債、借金の計画的な減額が打ち出されましたが、達成度はいかがですか。
長峯市長 私は市長選のマニフェストで「4年間で百名の人員削減」を約束しましたが、3年で113名の人員削減を行いました。行政改革大綱では、5年で140名と計画していますが、もう少し早い段階で実現するのではと思います。借金については、毎年確実に減っていまして、今年度末で61億円の借金を減らしました。日経のランキングによると、宮崎県内の市町村の中では最も財政状況が良いという評価を得ました。また全国の同じような規模の22市において、市民1人当たりの基金、貯金額も一番でした。これは基金を取り崩すことなく、借金を順調に減らせているということです。もちろん市民の皆さんのご理解とご協力があって初めて実現できるわけですから、市民の皆さんには選挙時から「将来のためには改革が必要であり、そのためには負担増をお願いすることもあります」と話してきました。ご理解いただくための説明も時間の限り行なってまいったつもりです。同時に、職員の意識改革も進めてきました。成果が比較的早くあがったのは、マニフェストを細分化して各部に下ろし、それを基に1年単位で数値目標の入った計画を立てるよう指示したからです。そのため、1年後には達成率が数字に表れ、それが評価にもつながるということで、職員にそれまで以上の緊張感が生まれました。
記者 最後に基幹産業の農業についてお話下さい。
長峯市長 国際競争もあり、それに勝ち抜いて行くためには規模の拡大を図っていかねばなりません。そのためには、集落営農法人(※4)を育てていくことが必要との考え方をしていまして、都城市には、全国から視察にくるほどの魅力的な集落営農法人が既にいくつか誕生しています。他方、和牛を育てている畜産農家の方の平均年齢が65歳まで上がっており、このままでは10年後、小牛市場が維持できなくなるのでは、と危惧しております。そのため、生産団体とも話をして、若く意欲的な担い手の支援に力を入れています。
記者 輸入飼料の高騰の折、小牛価格が上がらず苦境に立っている農家もあると聞きますので、その支援も宜しくお願いします。本日はお忙しいところ、誠にありがとうございました。
※1 人間発達学部。再申請・認可予定。
※2 インターチェンジを活用し、健康・医療/雇用創出を核とする活性化プラン。
※3 地域構造を強化する機能性の高い道路。
※4 集落を単位として共同で生産に取り組む組織(=集落営農)が法人化したもの。