国が2013年度の実施をめどに“新たな子育て政策”として推し進めている「子ども・子育て新システム(以下新システム)」。「市町村の保育実施責任をなくし(児童福祉法24条改悪)保育を福祉からサービスに変える、子どもの権利を侵害するシステムだ!」と、全国で保護者、保育団体らを中心に導入反対の声があがる中、国は12年1月31日に最終案を公表。今期の通常国会へ関連法案を提出するとしています。
新システムでは保育所と幼稚園を一体化した施設の名称を「総合こども園(仮称※以下仮称略)」とし、13年度から段階的に導入。現在の保育所の大半を3年程度で移行させ、15年度を想定する消費税10%への引き上げに合わせて本格実施する方針を盛り込んでいます。
しかし、国が新システムの目玉とした「幼保一体化」は、結果、※表1(右画像)のようにいくつもの施設が併存することとなり、現行制度以上に複雑に。とうてい一体化とはいえないものです。「待機児童問題の解消」は、待機児童の8割以上が3歳未満児という中、「総合こども園」には3歳未満児の保育を義務づけないなど、問題解消策になるのかとの疑問の声も。
そして、新システム最大の問題点とされる、市町村の保育実施責任をなくし保育の市場化をすすめる「企業参入」は、多様な事業主体の参入を可能としており、未だ不明な指定基準(国が定める基準を踏まえ、地方公共団体が条例で定めるとしている)により保育の質が下がるとの懸念があるなど、問題は山積です。
その上、利用料など保護者が最も知りたい部分の詳細のほとんどは「制度の施行までに検討」と持ち越され、保護者の不安は募るばかり。しかし、その一方で、現行制度の柱となる児童福祉法は改正され、「子ども・子育て支援法(仮称)」、「総合こども園法(仮称)」などの法案づくりが着々と進められているといった状況です。
「迷走した議論の中でとりまとめられた内容は複雑かつずさんなもの。新システムの中身の議論が十分でない中、法案を作ること自体が問題」と黒川教授は指摘します。
新システムにおける園の種類(※表1)をみてみましょう。
新システムでは、「こども園(仮称※以下仮称略)」として、認可保育所が0歳から5歳児の「(1)総合こども園」と0歳から2歳児の「(2)乳児保育所」に、幼稚園が「(1)総合こども園」(※但し3歳未満児の受け入れは義務づけていない)と3歳から5歳児の「(3)幼稚園」に分かれます。さらに「こども園」に属さない3歳から5歳児の、従来通りの「幼稚園」も存続します。
そのほか、認可外施設も基準を満たせば「(4)こども園」になります。
さらに小規模保育サービスなどは「こども園」とは別枠で「地域型保育(仮称)」として、小規模保育(児童数6人から19人以下)、家庭的保育(いわゆる保育ママ、児童数5人以下)、居宅訪問型保育、事業所内保育(いわゆる職場の託児所)の4種類となり、これらが待機児童の大半を占める3歳未満児の受け皿となることが期待されているようです。
新システムは当初、厚生労働省が管轄する保育所と、文部科学省が管轄する幼稚園を一体化、二重行政を解消するとして議論が始まりました。ところが、幼稚園団体の反発などで一体化を断念。教育と保育を提供する「総合こども園」は内閣府、幼稚園が移行する「幼稚園型」は文科省、0歳から2歳児の「保育所型」は厚労省と、「三重行政」ともいえる複雑なかたちになってしまいました。
また、幼稚園から「総合こども園」に移行する施設に配慮し、0歳から3歳児までの受け入れは義務づけず、結果、「0歳から5歳児まで」、「3歳から5歳児まで」と、実質2つの「総合こども園」が併存することになり、さらに私学助成も存続することになったため、「こども園」への参入を見送る幼稚園が増えるとの見方もあります。
国が新システムの問題点の指摘に対し、例外的な対応を提起して取り繕おうとした結果、このように複雑なシステムになってしまったといえるでしょう。
これらの施設の中から保護者は一体どのように、どの施設を選べばよいのでしょうか。また、その判断はできるのでしょうか。
市町村の保育実施義務がなくなる新システムでは、保護者責任で施設を探し、直接契約をしなければなりません。保護者として「我が子になるだけいい条件の保育を受けさせたい」と思うのは当然のこと。しかし、利用料や条件面などが施設間で異なってくることで、人気園では入園待ち、ということも予想されます。選んだとしても希望の施設に必ずしも入れるという保障はありません。
一方、入ってはみたものの、基本の利用料以外に実費徴収やオプション保育などの上乗せ徴収、さらに認定の保育時間を超えた利用分の徴収など、全体として利用者負担が現在より大きくなることが予想されます。これらが払えない場合は退所を余儀なくされ、また保護者責任で新たな施設を探さなければならず、困難を抱える子どもや家庭が保育から排除されることも危惧されます。
また、子どもが生涯にわたる人間形成の基礎を培うきわめて重要な時期である就学前の時期(乳幼児期)を満3歳で分けることを問題とする見方もあります。2歳までの施設に入所した場合、3歳になるとまた新たな施設を探さなければなりません。発達の連続性を確保すべき時期に、このような切れ目のある保育は子どもへの負担が大きいと考えられます。
非正規の時間給雇用が増え、共働き家庭が増大するとともに、ひとり親・虐待・障がい・貧困など、特別な配慮の必要な子ども・家庭への支援が求められる中、保護者が安心して子育てのできる環境を築くために必要なことは「選択」ではなく「平等」ではないでしょうか。 (順)
■取材協力/南九州大学 人間発達学部子ども教育学科 黒川久美教授