剣道は「礼に始まり、礼に終わる」と言われます。
まず、初めての子供に対しては、道場の板の間で素足で正座することから教えます。正座ができると仏教の禅宗の座禅をし、静かに目を閉じ、複式呼吸をしながら気を静め精神統一をはかります。
これができると正面の神殿に対して礼をし、次に指導の先生に対する礼、そして先輩や同僚に対する礼をして、はじめて剣道の練習の準備ができ、キャプテンの号令で面をつけ稽古が始まります。
練習を続けていくうちに技も上達し、自然に剣道修練の中で心技体の精神が身につき、何事にも対応できる人間ができると思います。
ここで、私の経験を踏まえ、戦前戦中から現在に至る剣道の歩みを話してみましょう。
戦前戦中は、小学校から中学校を受験合格した者が入学5年課程で卒業していました。中学に行けなかった者は高専課2年の義務教育を受け、実社会へ出たのです。
中学では、1年生から正科の授業で剣道と柔道があり、身体作りを主に、稽古中に休みもなく、水を飲む事も禁じられながら鍛えられました。その中で道徳の教育はありましたが、いずれも厳しく、自由のない事ばかりでした。
昭和20年8月の終戦と同時に日本はアメリカ占領下に置かれ、マッカーサー元帥の指令の元、剣道は「日本刀で人切りの精神を持つ人作りである」と、練習は全面禁止になり、その上、剣道の竹刀、防具などは全て焼き捨てられたのです。柔道だけは認められ実施されてました。
そして、昭和27年サンフランシスコ講和条約が発効され日本は独立しましたが、終戦以降の占領下から自由主義社会の世の中に変わり、剣道も戦後の剣道ではなく、スポーツ的要素が強い剣道として承認され、布袋に竹6本を入れた競技として発足したのです。
その後、剣道の特性を活かした現在のスタイルの竹刀となり、小・中・高・大学生、一般の方の中でクラブ活動として発展してきました。
昭和39年、,東京オリンピックで剣道が公開競技とし認められると関心が高まり、剣道の良さ(剣道の心)に惹かれ、国内だけでなく、広く海外にまで愛好者が増えたのです。
自由社会の中で、道徳教育が懸念される現在、剣道の持つ役割と特性が、青少年の人間形成に影響を及ぼすと認識され、家庭におけるしつけの問題と関連して道場に通われる家庭が増えています。
現在、剣道は男子日本選手権はもとより女性の目覚しい進出で、女子日本選手権さらには、世界選手権大会も開催されています。
剣道は日々修練を続けることによって人間が形成されます。修練の間も試合においても常に交剣慈愛(剣を交えている同士が打ちつ、打たれつの中で相手を慈しみ愛する心)を求めています。
勝つだけが剣道ではありません。この「交剣慈愛」の精神をもって剣道の基本を忘れることなく修練に励む事が大事なのです。